がん治療センター

乳がん

乳がんについて

日本人女性の乳がんは近年急激に増加しており、昨年は約4万人の女性が新たに乳がんと診断され、約1万人の女性が乳がんで命を落としています。
日本の乳がんの特徴は、40才代~50才代の比較的若い女性が一番かかりやすい年代であり、それ以降の年代もこの病気にかかる人数は減っていかないという点です。

家庭では子供を抱え、社会ではある一定の仕事をこなして、家族や地域社会にとってとても大事な存在であるお母さんが、乳がんにもっともかかりやすい年代なのです。

乳がんになったら、すぐに「死」というイメージを持たれる方も少なくありません。しかし、多くの場合はそうではありません。乳がんは早期に発見し、きちんとした治療を受ければ治る病気なのです。たとえ、ある程度進行した状態で見つかっても、あきらめる必要は全くありません。15年ほど前までは、大きな手術をして病気を治そうとしていましたが、乳がんの治療は劇的に進歩しています。

診断について

乳がんの診断はさまざまな方法を組み合わせて行います。

視触診 まず乳房全体を見て(視診)、手に触るようなしこりがないかを確認する方法です。
マンモグラフィー検査
(乳房レントゲン)
両方の乳房をはさんで圧迫し、上下及び左右方向から各1枚ずつ(合計4枚)レントゲン撮影をします。触ってわからない早期乳がん、しこりを作らない乳がんなどを濃い影(腫瘤影)や白い石灰(微細石灰化病変)として見つける目的で行います。
超音波検査
(エコー検査)
乳房に超音波をあてて乳房から返ってくる信号の変化を画像に変えて見る検査です。検査自体は痛みはありませんが、マンモグラフィーと比べると検査結果にバラツキがあるという問題点もあります。
穿刺吸引細胞診
(分泌物細胞診)
細い注射針をしこりに刺す、あるいは乳頭から出ている分泌物からごく少量の細胞を吸い取って顕微鏡で見る検査です。採血などと同じように麻酔をすることはありません。細胞での診断が難しい場合には「組織診断」を検討します。
針組織診 局所麻酔をして、特殊な機械と採血より少し太めの針を使って、しこりから組織を切り取って診断する検査です。短時間で傷はほとんど残りません。

検査の結果で、「乳がん」と診断されたときには、手術や治療に向けてCTスキャン検査、骨シンチ検査、乳房MRI検査などを追加していきます。

治療について

現在では、乳がんの治療は「手術・くすり・放射線」の3つの治療法を組み合わせて行うことが標準となっており、治療成績は大きく向上しています。
手術で取り除いたしこりの詳しい顕微鏡検査の結果から、将来の再発の危険性やどのような薬が効果があるのかなどを予測することが可能になってきています。
したがって、ひとりひとりの患者さんに応じて最善の治療を選択することができるのです。

手術

まず、乳房の手術についてご説明します。 乳がんの手術法は、大きく分けて乳房温存術(乳房部分切除術)と乳房切除術(乳房全摘)があります。 乳房温存術をすると、手術後の経過に悪い影響をあたえるのではないかと、心配される方がおられますが、乳房切除術の場合と比較すると、再発率や生存率にはほとんど差がありません。 それが明らかとなってからは、乳房温存術を行う割合が増えています。

乳房温存術

乳房温存術は、乳腺を部分的に切除して乳房の膨らみを3/4以上温存できる手術です。ただ、残した乳房での再発を予防するために、手術後に放射線治療を行うことが多いです。 乳房温存術を行うには、条件があります。
1.がんの大きさが3センチ以下
2.病巣が広範に広がっていない 3.多発病巣がない
4.放射線照射が可能
5.患者さんが乳房の温存を希望
(日本乳癌学会のガイドラインより) がんの大きさについては、乳房が大きい場合には、3cmより大きくても温存手術が可能ですし、反対にいくらしこりが小さくても目に見えないがん細胞が広がっていたり、しこりが乳頭に近いために乳頭がゆがんだりしている場合には、乳房切除をした方がよい場合があります。

◆手術後の変形と形成手術
手術後の乳房の形がどうなるのかは気になることと思います。手術後にどのような乳房の形になるのかをあらかじめ示すことができればよいのですが、現状では手術をしてみないとわからないところがあります。
おおまかなところは、以下のとおりです。
【乳房のへこみ】ボリュームが減りますので、場合によってはへこみが目立つことがあります。
【乳房の大きさ】切除した分だけ乳房のボリュームは減るので、当然小さくなります。切除する乳腺の量と乳房の大きさによってかなり個人差があります。がんのできる場所にも左右され、特に乳房の下の方のがんでは、変形が強くなる可能性が高いです。
【温存手術後の形成手術】温存手術後に形成外科手術を行って変形をやわらげることは、部分的に組織が欠損したところを補う良い方法がないため技術的に難しくなります。無理をして乳房温存術を行うよりも、乳房切除術をした後で乳房再建術をした方が美容的には良好です。

◆術前化学療法
しこりが大きくても乳房温存術を強く希望される方もおられると思います。この場合、手術前に抗がん剤(場合によってはホルモン剤)を使用して、しこりが小さくなった場合に温存手術が可能です。これは標準治療の一つです。

乳房切除術

乳房切除が適応となるのは、がんが大きい、しこりが小さくてもがんが乳腺内に広がっている、がんが乳房内に複数ある(多発している)などのために乳房温存術ができない方や、ご本人が乳房温存術を希望されない方などが乳房切除術の対象となります。
乳房切除術は、乳頭・乳輪をふくめて皮膚を紡錘状に切開して、がんを含んだ乳腺すべてを切除します。大胸筋・小胸筋といった胸の筋肉は切除する必要がない場合がほとんどなのですが、乳がんの進行具合により、切除しなければならない場合があります。大胸筋を切除した場合には、肋骨が目立つようになります。
乳房切除の後には放射線治療は基本的に必要ないのですが、わきのリンパ節転移が4ヵ所以上ある場合には、放射線治療をおすすめしています。というのも、手術創付近の再発を減らすことができ、また生存率もわずかですが改善するというデータがあります。そのため、わきのリンパ節転移が4ヵ所以上ある場合には、放射線治療を行います。

※センチネルリンパ節生検による腋窩リンパ節廓清の省略
センチネルリンパ節とは「門番」「見張り」のリンパ節のことで、乳がん細胞が一番初めに到達するリンパ節です。センチネルリンパ節に転移がない場合、その約90%が他の腋窩リンパ節には転移がみられないという報告があります。検査方法はしこり(がん)の近くに放射線同位元素や色素を注射し、これを目印としてセンチネルリンパ節を見つけます。多くの場合は、わきの下のリンパ節(腋窩リンパ節 通常は10~30個ほどあります)の中にセンチネルリンパ節が見つかります。ここに転移がなければ、腋窩リンパ節廓清を省略するという選択肢も出てきます。リンパ節廓清を行わなくてもよい可能性がある患者さんを選ぶ手段として研究されている方法で、腋窩リンパ節廓清に伴う様々な症状(しびれやむくみなど)を予防することができます。

薬物療法

◆薬物療法の種類と必要性
乳がんの薬物療法には、ホルモン療法と化学療法(抗がん剤)と分子標的治療があります。将来の病気の再発・転移をおさえて病気を治すために、非常に重要な治療です。そもそも、なぜ薬物療法をしなければならないかというと、乳がんは手術だけでは治らない場合が多いからです。一般的に、乳がんになった方の約40%が将来いずれかの時点で、再発をしてしまうと言われています。手術の時点では、超音波・CT・骨シンチなどのいろいろな検査をしても、ほとんどの人に異常(転移)は見られません。なぜ手術後に再発・転移する人がでてくるかというと、手術の時には検査では捕らえられない微小ながん細胞が、血液やリンパの流れにのって既に全身に回っていて、この微小ながん細胞が時間の経過とともに増殖し、時間が経つと目に見える転移になってしまうからです。

手術で、局所のがんを取り除くことはできます。しかし、血液やリンパの流れにのって全身にまわっている微小ながん細胞の広がりは、手の届く範囲を超えているのです。そこで、全身に隠れているかもしれない微小ながん細胞をたたくことのできる薬物療法が重要となってきます。 将来転移が出てこない可能性があるのに、なぜ薬物療法を受けなければならないのか、と考える人もおられるでしょう。その理由は、転移が目に見えるようになってからでは、たとえいろいろな治療を行ったとしても、病気を完全に治すことは、非常に困難だからです。そして、手術の後に薬物療法を行うことで、転移をする危険性が減ること、また生存率も改善することが、30年くらい前から報告され始めたからです。だから今、多少つらくてもホルモン治療や抗がん剤などの治療を行い、転移を防ぐことが大切なのです。
ただ、すべての人にこういった治療が必要というわけではありません。しこりが小さくリンパ節転移がなかったというような再発の危険性の低い人は、薬物療法によるメリットがほとんどないと考えられますので、おすすめしないことがあります。また、最近ではがんの病理組織検査の結果によっては、ホルモン治療だけをおすすめしたり、抗がん剤治療だけをおすすめする場合もあります。このように、患者さん個人個人に応じて最適な治療法を選択する時代になって来ています。

ホルモン療法

◆ホルモン療法の効果がある人
ホルモン療法は、乳がんの薬物療法の一つで、非常に効果的でかつ体への負担も少ない良い治療法ですが、すべての乳がんの方に効果があるわけではありません。乳がんには、女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受けて増えるものと、女性ホルモンとは無関係に増えるものがあります。ホルモン治療は、女性ホルモンの影響を受けて増えるタイプの乳がんに対して、その作用をブロックすることで、治療効果を発揮します。あなたの乳がんが女性ホルモン(エストロゲン)と関係があるかないかは、乳がん(しこり)の組織を調べれば、見分けることができます。免疫染色という特殊な方法を使って、ER(エストロゲン受容体)とPgR(プロゲステロン受容体)が乳がん組織にあるかどうかを調べます。この検査でどちらか一方でも認める場合には、女性ホルモン(エストロゲン)に対する感受性のある乳がんと判断します。検査でがんにホルモン感受性のないことがわかった場合には、ホルモン治療をおすすめすることはありません。ホルモン感受性のない乳がんにつかえる再発予防のお薬は、抗がん剤ということになります。

◆ホルモン療法に使う薬
ホルモン療法に使う薬は、「月経があるかないか」で使えるものが変わります。その理由は、卵巣機能があるかないかを月経の状況で判断するためです。月経がある、すなわち卵巣機能がある人は、卵巣が女性ホルモン(エストロゲン)を産生する工場となっています。子宮筋腫などのために子宮を摘出した場合には、月経はなくなりますが、卵巣が働いているかどうかはわかりません。卵巣が働いているという人は、女性ホルモンの状態としては子宮がない方でも「閉経前」に相当します。反対に、卵巣が働いていなければ、「閉経後」に相当します。卵巣が働いているかどうかは、血液中のホルモン値を調べることでわかります。

抗がん剤治療(化学療法)

◆抗がん剤治療について
抗がん剤治療の目的は将来の病気の再発・転移を抑え、病気を治すことが目的です。 抗がん剤治療は、副作用が強く、きつい治療だという良くないイメージがあります。15年くらい前までは、副作用(特に吐き気)をおさえる良い薬がなかったこともあり、かなり負担の大きな治療法であったことは確かです。
しかしながら、現在では吐き気を強力におさえる薬が開発されました。こういった薬をきちんと使うことで、副作用をかなりコントロールできます。抗がん剤治療は、その副作用と治療効果をきちんと理解すれば、多少のきつさを補うだけのメリットがあることが理解していただけると思います。もちろん、理解した上でそのメリットが十分でないと思われた方には、抗がん剤治療を受けないという選択肢も有ります。

◆抗がん剤のメリット
約20年も前に、乳がんの手術後に抗がん剤治療をすると、手術のみの人よりも再発する危険性が1/4ほど減ることが報告されました。手術だけでは治らない人が、抗がん剤治療により治るということはとても画期的なことで、それ以来、研究がさかんに進められてきました。現在もさらに良い治療を求めて、研究が進められています。

◆抗がん剤治療をするときの要点
抗がん剤治療の要点は、使用する抗がん剤の種類・投与量・投与回数です。抗がん剤はいろいろな種類がありますが、すべてのがんに効くわけではありません。また、再発予防に使用する薬と再発後に使用する薬も、若干異なります。
抗がん剤の投与量についてですが、抗がん剤はほかの薬とちがって効果が出る量と副作用が強く出る量が非常に近いという特徴があります。例えば、一般的な薬は間違って2倍使用してもすぐに生命にかかわるということはありませんが、抗がん剤ではそうはいきません。ですから、抗がん剤の投与量は、身長と体重から割り出される体表面積を指標として、厳密に決められています。抗がん剤は多すぎればとても強い毒になり、少なすぎれば毒にはなっても、思った効果は得られないという特徴があります。
投与回数については、今まで行われた研究(臨床試験)から標準的な投与回数が決まっています。これも多すぎても少なすぎてもいけなくて、厳密なものなのです。 抗がん剤による副作用が怖いからといって、標準的に使用する量よりも少ない量を投与している場合があります。ところが、抗がん剤は効果の出る量よりも少ない量を使ったのでは、効果が著しく落ちてしまいます。ですから、まず標準的な投与量を使用してみて、もし副作用が強く出るようならば、その時に初めて投与量を下げることを考慮しなければなりません。
抗がん剤治療は決して楽な治療ではありませんが、工夫をすれば、現在では普通の生活を維持しながら通院で安全に行えるものとなっています。そして予定通りやり遂げるコツは、決して無理をしないということです。

◆抗がん剤治療の対象となる人
抗がん剤治療は、ホルモン治療の効果がないすべての人が対象になります。高齢で副作用が心配だったり、しこりが小さくて再発の危険性が低い場合やご本人が希望されない場合には、抗がん剤治療をすることしないことのメリット・デメリットを良く理解された上で、抗がん剤治療を行わないという選択もありえます。
また、ホルモン治療が効果のある人でも、再発の危険性が高い場合には、抗がん剤がすすめられます。例えば、しこりの大きさが大きい場合、リンパ節に転移のある場合、がん細胞の顔つきがよくない場合などです。

分子標的治療

◆分子標的治療について
分子標的治療の薬で現在使われているのは、ハーセプチンとタイケルブです。ハーセプチンやタイケルブは抗がん剤とは違い、脱毛や白血球減少、吐き気などのつらい副作用はほとんどありません。ただ、タイケルブでは下痢や発疹がでる場合がときどきあります。 術後に行うハーセプチンの投与期間は1年間です。ほとんどの場合は抗がん剤治療と組み合わせて治療を行います。

◆分子標的治療の対象となる人
現在、分子標的治療の対象になる人は、しこりの検査でHER2蛋白がたくさんでていることが分かった人です。具体的にはHER2が3+の人、2+で遺伝子検査(FISH検査)が陽性の人が対象になります。

放射線治療

■乳房温存術後の放射線治療
乳房温存術を行った後には、5~6週間にわたり通院で毎日放射線療法を行うことが多いです。その理由は、放射線治療を行わないと、約20%と高率に温存した乳房に腫瘍が再発するからです。原則として毎日通院が必要になりますが、1回の治療にかかる時間は通常10分程度ですので、比較的ご高齢の方や仕事をされている方でも十分可能です。
温存療法と放射線療法を行った後に、手術した乳房にがんが再発する可能性は、5~10%程度です。再発した場合には、再度部分的な切除ができることもあれば、乳房切除が必要な場合があります。 乳房切除の後には放射線治療は基本的に必要ないのですが、わきのリンパ節転移が4個以上ある人には、放射線治療をおすすめしています。というのも、手術創付近の再発を減らすことができ、また生存率もわずかですが改善するというデータがあります。そのため、わきのリンパ節転移が4個以上ある人には、放射線治療を行います。

Message For You

幸せになりたいと誰しも願います。
ではもし乳がんになってしまったら、不幸になるのでしょうか?
そうではないと私は思います。もし乳がんになっても、早期発見ができ、最善の治療を受けることができたら、病気の治る可能性は高いのです。
また、長い治療期間も自分らしく生活をおくることができれば、幸せを感じることができると信じているからです。
済生会福岡総合病院・乳腺外科では、乳腺チームスタッフ全員が共通の意識を持って質の高い医療を目指しています。医師の主観や勘ではなく、世界的に「最善」と認められた治療法を選択肢としてそろえ、あなただけのオーダーメイド治療を提供することにより、あなたが幸せになるための一助となりたいと願っています。すべては、あなたの不安を「安心」に変えるために・・・。

文責:乳腺外科 山口 博志

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