がん治療センター

肝がん

肝がんについて

肝臓は極めて多様な機能を営む人体最大の臓器(1,000g~1,800g)で、右上腹部にあります。肝臓は体外から取り入れた様々な物質から必要なものを合成し、貯蔵し、他の臓器に運びます。また不要なものを分解し、排泄します。つまり肝臓は、体内の同化と異化を調整する働きをしているといえます。肝臓の主な機能をまとめると以下のようになります。

  • 1. 代謝
    ◇糖質:
    消化によって単糖類となり吸収されたあと、肝臓にグリコーゲンとして貯え、必要に応じてグルコースに分解して供給し、血糖を一定に保ちます。
    ◇脂肪:
    消化吸収された脂肪は肝臓やその他の臓器でエネルギー源として利用されます。肝臓は脂肪の合成も活発に行っており、
    血中の脂肪の大部分は肝臓で作られます。
    ◇蛋白質:
    消化によってアミノ酸に分解されて吸収された後、肝臓でからだに必要な蛋白質に作り変えられます。
    ◇ビタミン:
    特に脂溶性ビタミンの代謝・供給を行い、全身のビタミンを調節しています。
  • 2. 解毒作用
    有害物質などを酸化・還元、抱合などによって無害なものに変え、体外に排泄しやすくします。
  • 3. 胆汁の生成
    肝臓の細胞はコレステロールを合成し、さらにコレステロールから胆汁酸を合成します。胆汁は肝臓の細胞でつくられビリルビン、胆汁酸、コレステロールなどを成分とし、胆管さらには十二指腸に排泄され脂肪の消化、吸収に使われます。
  • 4.その他のはたらき
    このほかに肝臓はホルモンや電解質の調節、血液凝固因子の産生、循環血液量の調節などにも関係しています。

病態について

肝臓にできるがんのことを肝がんといいますが、まず大きくわけて原発性肝がんと転移性肝がんにわかれます。転移性肝がんは他の臓器に発生したがんが血液などを介して肝臓に転移したもので、胃、大腸、膵臓などの消化器系や肺、乳房から発生したがんで多くみられます。転移性肝がんは発生部位により診断や治療の方法が異なります。
転移性肝がんに対して、原発性肝がんは肝臓から発生したがんのことをいいます。原発性肝がんの中には肝細胞から発生した肝細胞がん、胆管細胞から発生した胆管細胞がん(肝内胆管がん)、またこれらが混じった混合型肝がんなどがあります。日本では肝細胞がんが原発性肝がんの90%以上を占めます。
日本では、肝細胞がんの患者さんの90%近くがB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに持続感染しています。これらのウイルスに感染することが、肝細胞がんが発生する原因となることがわかっています。その他にもアルコール性肝硬変、非アルコール性脂肪肝、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変などの肝疾患が肝細胞がんの原因となることもあります。

  • 【日本肝臓学会ポスターより引用】

  • 肝細胞がんは大きくなると、性質の異なる
    細胞集団が陣地取りをし境界を作る。
    中央から左の白~黄色の部分ががん、
    中央から右の赤い部分が正常な組織。
    【消化器外科ナーシングより引用】

診断方法について

肝細胞がんの診断においては画像診断が主となりますが、他に腫瘍マーカー検査(血液検査)も重要であり、生検による組織診断を行うこともあります。 画像検査の中で最も簡便に行うことができるのが超音波検査です。放射線などを用いないので体に害がなく、色々な角度での断面で描出でき、小さな腫瘍でも描出可能ですが、慢性肝疾患により正常の肝臓が粗く見える方や、腫瘍の場所によっては描出できないことがあります。 CTは放射線を用いて、体の断層写真を撮る検査ですが、肝細胞がんの診断においては造影剤の使用が必要になります。肝細胞がんでは、正常の肝臓と比較すると血液の流れが変化しています。造影剤注射後に時間をずらして数回撮影することにより、血流の変化を描出し、肝細胞がんの診断が可能になります。 MRIはCTと異なり、放射線を用いずに強力な磁気を用いた検査です。CTと同様に造影剤を用いた検査も行いますが、造影剤を用いなくても、診断ができることもあります。問題としては、磁気を用いているため、体内に金属があったり、ペースメーカーが入っている方は検査ができない場合があります。 上記の画像検査が典型的な肝細胞がんの所見であれば、診断が確定しますが、そうでない場合は、生検といって、腫瘍部分に針を刺して組織を採取し顕微鏡で見て診断する検査まで行うことがあります。

治療方法について

大きくわけて、内科的治療と外科的治療に分かれます。 外科的治療とは手術療法であり、多くは開腹して、肝臓の一部を切除する方法です。最近では肝細胞癌治療目的での肝臓移植も行われています。 内科的治療には、肝動脈塞栓療法、経皮的局所療法、化学療法などがあります。

肝動脈塞栓療法

肝動脈塞栓療法は血管造影の際に肝細胞癌に栄養を送っている動脈に塞栓物質を注入することにより、癌細胞に血液が行かないようにして、癌細胞を殺す治療法です。多くの場合、治療効果を高めるために、抗癌剤を注入したあとに塞栓物質を注入する肝動脈科学塞栓療法を行います。

経皮的局所療法

経皮的局所療法は、超音波にて観察しながら、肝細胞癌に直接針を刺して癌細胞を殺す治療法です。具体的にはラジオ波焼灼療法とエタノール注入療法などがあります。ラジオ波焼灼療法は電極針という特殊な針を用います。この電極針に通電することにより、針の先端付近に熱が発生し、熱凝固により癌細胞を殺す治療法です。エタノール注入療法は無水エタノール(99.5%エチルアルコール)を肝細胞癌に直接注入し、無水エタノールの蛋白凝固作用により、癌細胞を殺す治療法です。

化学療法

化学療法とは抗癌剤を用いる方法ですが、上記の肝動脈化学塞栓療法の他に、肝臓の血管に管を入れたままにして持続的に抗癌剤を注入する持続動注化学療法が行われます。最近では、他の癌の治療でも使用されている分子標的治療薬という種類の薬が肝細胞癌にも認可されました。この薬は癌細胞を直接殺すのではなく、癌細胞が増えるのを抑えたり、癌に栄養を送る血管ができるのを抑えることにより、癌の進行を抑える薬です。したがって、癌を治すというより、癌との共存しながら命を延ばすような治療法となります。肝細胞癌に対する治療は、他にも放射線療法などがあります。

ほとんどの肝細胞癌の患者さんは背景に慢性肝炎や肝硬変といった肝臓病をもっており、このことが治療法を決めるうえで重要な問題となります。肝臓はなくては生きていけない臓器であり、肝機能がある程度以下に低下すると黄疸や腹水、肝性脳症などの症状が出現し、さらに低下すると命に関わってきます。肝細胞癌に対する治療は、少なからず肝機能を低下させる可能性があるため、治療法の選択において肝機能に最大限の注意をはらう必要があります。その他、肝細胞癌の大きさ、数、場所や年齢や体力などの全身状態も考慮したうえで、上記の治療法の中から1つあるいは複数の治療法を組み合わせた治療方針を決定します。

文責:内科 森園 周祐

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