がん治療センター

喉頭がん

喉頭がんの特徴

喉頭がんは胃がんや肺がんなどほかの臓器に発生するがんと比較すると発生頻度の低いがんで、がん全体の2%にすぎません。しかし、頭頚部に限っていうともっとも罹患率の高いがんです。
治療方法もほぼ確立していて、5年生存率80%以上と制御しやすいがんです。ただし、進行がんでは喉頭摘出を余儀なくされることがあり、治療に伴い生活の質の低下を残すことになります。わが国では喉頭がんの罹患率には大きな男女差があり、罹患率は人口10万人あたり、男性3.18人に対し女性0.13人と、男女比は15:1で特に男性優位です。
タバコと関係のある「がん」というとまず肺がんをイメージしますが、喫煙習慣と発がんの関係の強さで考えると、喉頭がんはもっともタバコの影響を受けるがんだといえます。喉頭がん患者の喫煙率は97.3%で、喫煙習慣を主体とした生活習慣病といえるがんです。喫煙係数(BrinkmanIndex:1日の喫煙本数×年数)が400を超えたあたりから、喉頭がんの発生は増加し、1000でピークに達します。
わが国では年間600~1000人が喉頭がんになり、好発年齢は60~70歳代です。平均的な生活歴としては、「タバコを1日1箱(20本)30~40年吸い続けた」というもので、これは喫煙係数700ぐらいに相当します。タバコのダメージは喫煙習慣とともに蓄積し、発がんに至らなくとも炎症を引き起こしたりします。その他の喉頭がんの危険因子としては(特に食べ物も接触する声門上がんで目立ちます)、口腔内の不衛生(虫歯を放置しているなど)、過度の飲酒などが挙げられます。

喉頭がんの症状


がんの教科書中川恵一著より引用

喉頭は大きく分けて、声門上部、声門部、声門下部に分けられます。声門上部は、空気の通り道である喉頭(こうとう)と食物の通り道である咽頭(いんとう)を隔てる部位です。声門部は、声帯を中心に、おもに発声を司る部位です。声門下部は肺に続く気道の一部で、喉頭と気管の境界に相当します。喉頭がんの症状は、部位によって症状が大きく異なります。 喉頭がんのうち約60%を占める声門がんでは、ごく早期から声がれ(嗄声:させい)が出現します。ほかにのどの痛み、血痰、進行すると呼吸困難が出現します。これに対し約30%を占める声門上がんでは、声がれが出現することは少なく、のどの痛み、嚥下困難、出血・血痰、といった症状が出現します。声門下がんは約2%ときわめて稀で、ほとんど症状が出ることはなく、咳や呼吸困難で気づくことがあります。

喉頭がんの治療

喉頭がんの治療には、放射線治療と手術療法があります。抗がん剤と放射線治療を組み合わせて治療することもあります。

A.放射線治療(照射)

体の外から喉頭に放射線を当てる治療です。 病気の進行度や部位(声門がん、声門上がん)で照射野(放射線を当てる範囲)が変わります。副作用を最小限に抑えつつ最大の効果を発揮するように分割して連日照射を行います。1回の照射に要する時間は数分で、1日1回照射を行いますので、治療期間は約6~8週間かかります。外来通院治療も可能です。
副作用は、照射範囲の咽喉頭炎で、ときに痛みが強く食事がとりにくくなることもありますが、通常は消炎鎮痛剤の内服により対応可能です。ほかには、抗がん剤治療との相乗効果で、白血球減少症や貧血、血小板減少症が出ることもあります。
後遺症は、咽喉頭の乾燥によるのどの違和感です。過去の喫煙のために、もともと慢性喉頭炎の状態にある人が多いので、のどの違和感は多くの場合長く続きます。咽喉頭の乾燥を防ぐために蒸気吸入やうがいを続けることが必要です。
声門上がんでは唾液腺が照射範囲にかかるため、唾液分泌低下によっては口腔内の乾燥が残ることもあります。 重篤な後遺症はほとんどありませんが、稀に(数年たってからでも)喉頭を構成する軟骨の炎症や壊死が生じることがあり、喉頭の壊死のため気道が保てないので喉頭を摘出せざるを得ないこともあります。

B.喉頭全摘出術

進行がんに対して行われる術式です。喉頭だけでなく周囲の組織にまで進展した場合には周囲組織(下咽頭や食道、気管、甲状腺など)も含めて摘出を行います。喉頭を摘出したあとは残った咽頭粘膜を縫合し、気管は皮膚と縫合して永久気管口を作ります。つまり、咽頭は食道へとつながる、食事が通過するだけの部分として働きます。呼吸は首の下の方に作った気管口から直接行うことになります。食事のルートと呼吸のルートが分離させることになります。術後10日前後は食事ができませんので、経鼻経管栄養(チューブを鼻から胃に通しておいて流動食を直接胃に届ける食事形態)を行います。 術後の後遺症は、喉頭摘出による発声障害と、気管口を通した呼吸による弊害です。
喉頭を通して今まで通りの発声はできなくなりますので、身体障害者3級の認定になります。リハビリテーションによる代用音声で会話することができます。代用音声には、食道発声法、人工喉頭を用いた発声法など様々な方法があります。習得期間の違いや、特性による向き不向きがあります。多くの人は、日常生活の会話は十分可能で、電話での会話もできて、今まで通りの職業に復帰している方も多くいます。
代表的な発声法について説明します。 食道発声は、食道に空気を飲み込んで空気をはき出すときに音が出ることを利用した発声法です。げっぷで音が出ることと同じ原理ですが、喉頭を失うと逆に、この方法で音を出すことが容易になります。数ヶ月の練習が必要ですが、習得できればいつでもどこでも器具を使用せずに会話することができます。
人工喉頭(電気式人工喉頭)による発声は、小型の電気カミソリ程度の大きさの人工喉頭を首の皮膚(咽頭と皮膚が接近している部位)に当てて発声する方法です。食道発声よりも習得は容易です。ただし、やや人工的で抑揚のない声になることと、常に携帯する必要があるという欠点があります。

文責:耳鼻咽喉科 頭頚部外科 小山 徹也

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